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武道における「型」の有益性とは?

医学博士 ラファエル・H・グティエレス

ボスコ・トリン

 

背景:脳に関する基礎:表1

科学分野

出来事

意義

1890

 

心理学/医学

医学博士ジェームズ・ウィリアムスが、経験によって脳がどのように変化するかに関する論文を執筆

学習により、脳に物理的な変化が起きる可能性

1909

心理学

ブロードマンが、機能に応じて脳の特定の区分を示す脳地図を作成

動作の学習に関わる領域があることを発見

1927

心理学/生理学

イヴァン・パブロフが「古典的条件付け」を提唱。犬の唾液分泌を刺激することができる。

条件反射を教えることはできるが、それを継続しなければ最終的に学習した行動パターンは消滅する。

1958

生物学(細胞分子)

フランシス・クリックによる「セントラルドグマ」に関する講演

細胞がどのようにしてDNAを用いてたんぱく質を生成するかを説明

1992

心理学/神経生理学

Di Pellegrino他による、ミラーニューロンシステムに関する論文

脳細胞の中に、行動を解釈し模倣によって学習する役割を持つものがあると主張

2005

生物学/神経科学

ミラーニューロンシステム(MNS)は、「動作そのものを行っている時だけでなく、他の人がその動作を行っている時にも活性化する。ミラーニューロンは、他者の行動を理解する能力を高めると考えられている・・・その時点で行われている行動だけでなく、その後の行動の一部を予測していると思われる。」1

「見慣れた状況の中である動作を観察すると、『論理的に関連のある』動作、つまり今見ている動作の次に来るであろう動作を予測するミラーニューロンが活性化される・・・ミラーニューロンシステムは、他者の行動を理解することだけでなく、それを予測することにも密接に関わっている。」1

2006

神経科学

ドラガンスキー他が、学習期間中に脳の灰白質が増加すると発表

学習によって脳が変化し、脳内における物理的な接続が起こる

 

要約:

日本や沖縄の伝統的武道、スパルタのピューティア、そしてインドの武術舞踊などに見られる定型化された動きについて、その長い歴史が文献に記されている。多くの流派において、それらの動きこそが武術の真髄となっている。近代科学でも、「型」の実践が非常に価値の高いものであることを証明する膨大な証拠が示されている。「型」は、無意識の下、つまり無心とも言える状態で、身体を動かすことにもつながるだろう。その利点には、戦いや指導のみならず、心の有用性をも広げる可能性がある。

 

導入:

第二次世界大戦の末期、日本が不況にあえぐ中、政府が弱体化していたことも相まって、人々の中には生きるために犯罪に走る者もいた。犯罪組織に支配される町すら出てくる混乱の時代に、本部朝基(ちょうき)とその弟子がいた。ある夜、本部と弟子の一人が橋を渡っていると、ならず者一味が橋の両端をふさぎ、彼らを襲った。本部はすかさず彼らを倒し橋から投げ落とすと、何事もなかったかのように会話に戻った。弟子が自分はいつその技を学べるのかと尋ねたが、本部は(自分の動きを)覚えておらず、弟子が説明して初めて思い出したのだった。本部は、頭で考えずに襲撃に反応して動いたのだ。このような話は、伝統的武術ではよくある。このエピソードは、防御における「型」の強みについて考察する上で検証に値する。 

 

新たな技の習得:

「どのスポーツを習得するにも・・・」「訓練を日夜繰り返すこと」が必要なのは当然のことである2。特定の筋肉を使うことが技を学ぶ上で必要であり、それが脳にもたらす変化は、「高度な動きをする能力を持続させる」3ために必要とされる。「型」を学ぶ際、技を正しく身につけるために何度も動きを繰り返す。そうすることで、型に内包されるあらゆる技を、機械のように正確に行うことができるようになる。

通常の実践以上に、「型」は模範であり、「脳は、新しい刺激や外からの刺激を意味づけする上で役立つ模範を積極的に探す『模範検知装置』である」3.模範のない反復練習だけをしていると、「入ってくる情報は破棄される可能性が高い」3。「型」を学ぶことで技やその組み合わせを反復するが、「何度も反復することで、壊すことのできないほど精巧かつ自然につなぎ合わされた一連の技となる可能性が非常に高い」4

技を学ぶ際に、初心者は上級者の動きを模倣するが、これにより3つの機能が働く。1.視点転換(View-Point Transformation: VPT)「・・・動きを示す人の身体を、学習者の身体に並ぶよう“回転”させる」5。2.視覚運動地図(Visuo-Motor Map: VMM)「視覚的情報を運動データに転写する」5.3.ジェスチャー模倣「観察したジェスチャーを認識し独自の解釈を生み出すことで、同様のジェスチャー/目標を後になって行う」5。「型」の訓練を通し脳を変化させることで記憶の通り道が強化され、後にその記憶の通り道に戻りやすくなる。これは、新しい「情報を長期保存させることは、新しいたんぱく質合成依存である・・・」6 からである。

 

学びを強化する:

「型」は、一度習得すれば、怪我をしていても(他人の訓練を)見るだけで修練することができる。それは、「・・・動作の模倣と観察の両方に関連する脳の領域が活発になる・・・」7からである。「型」を見ることは、「・・・一連の学習を支援することができ、これは・・・訓練中に動作をするグループの動きと同等である・・・」8

「型」を学ぶと、生徒はより高度な技術を学ぶのも楽になる。これは、脳が「すでにある知識と、それをさらに強化する学習方法を用いて、価値関数を予測し学習のスピードを上げる」からである9 

 

より素早く反応し相手の動きを予測する:

「型」は、より素早い反応を可能にする。なぜなら、「判断に要求されるのは、目の前の知覚情報を、最近示された情報あるいは長期記憶(LTM)から引き出された情報と比較すること」10だからである。自己防衛の際、呼び覚まされた「型」の記憶に基づいて身体が動くのだ。

この理由は、「人間のミラーニューロンシステム(MNS)は、活発化した刺激を処理するだけでなく、特に社会的関連性を持つ刺激を処理することに特化している」11ことにある。攻撃について言うと、「型」を実践する武道家は、それまでの学びに基づいて攻撃者の動きを予測することができる。脳が、「通常、どういう動きの後に具体的にどの動きが来るか・・・ある特定の状況の中で行われた動きを観察することにより、その状況の中で目的を達成するために通常なされる一連の動きを思い出す」12

「目の前の人が達成しようとする目的を事前に予期することで、我々はその人の動きを予測することができる。そしてその動きが分かれば、我々自身の運動体系を基礎として運動学的予測をすることができる」13

 

結果

「型」には多くの利点がある。その理由は:1)技術の習得を助けるために必要な模範を提供する。2)生徒は、「型」を見ることで記憶を固定化できる。3)すでに知っている模範を活用し、さらなる技術を身につけ進歩することにつながる。4)上級者の「型」を見ることも、習得を助ける模範となる。5)心で反応するために活用され、無心につながる。6)習得した「型」に基づいて素早く反応することができるため、次にどうすべきかを考える必要がなくなる。7)「型」の動きに基づいて相手の動きを予測する能力が身につく。

 

結論:

多くの人が、考えずに動くことのできる「無心」の境地に達することは可能だと信じている。沢庵によると、剣士は、「敵のことも、己のことも、敵の刀の動きをも考えず・・・潜在意識の指示に身をゆだねる心構えができている。その時点では、刀の使い手としての己を抹消している。斬る時は、剣士ではなくその潜在意識が操る刀が斬るのである。」14。「型」は、この境地に達する鍵となり得る。

「型」を実践することの利点を示す証拠もある。相手もしくは攻撃者の意図を読み取ることができることで、頭で処理することなく型を使って動くことができる。「型」を実践することで、導入で示した無心の境地に達することが可能だと考えることに無理はない。

 

議論:

模範を学ぶことの利点は、数多く見出されている。多くの文献が、機能を失った場合のリハビリにおいて、模範を記憶し活用することを主張している。これは、ダメージを受けた後で心が修復する力に基づいている。怪我をする前の脳の連携が多いほど、修復が容易になるのだ。 

脳の学習サイクルとミラーニューロンシステム(MNS)に基づけば、「型」の実践は子供に見られる症状の補助治療として活用できるのではないか。ミラーニューロンの不全によると考えられている自閉症も、既存のMNSを強化することで「型」の訓練の 恩恵を受けることができるかもしれない。注意欠陥障害についても、注意力を維持するために脳の様々な部分を活用する際、心の活用と修復を助けることができる「型」が役立つかもしれない。

脳に起因する症状に対し医薬品を使わない補助治療として武道を活用することが実用的ではないかと思われ、事例証拠にも裏付けられているが、これまでのところ、その利点を確認あるいは否定する研究を行った機関はない。

 

参考文献:

  1. (no authors listed) Predicting the Future: Mirror Neurons Reflect the Intentions of Others. PLoS Biol. 2005 Mar;3(3):
  2. Nielsen, Jens Bo and Cohen, Leonardo G, “The olympic brain. Does corticospinal plasticity play a role in acquisition of skills required for high-performance sports?”   J Physiol. 2008 January 1; 586(Pt 1): 65–70.
  3. Oberman, Lindsay M., Pineda, Jaime A., Ramachandran, Vilayanur S., “The human mirror neuron system: A link between action observation and social skills,” Soc Cogn Affect Neurosci. 2007 March; 2(1): 62–66.
  4. Lopes M, Santos-Victor J., “Visual learning by imitation with motor representations” IEEE Trans Syst Man Cybern B Cybern. 2005 Jun;35(3):438-49.
  5. Lopes M, Santos-Victor J., “Visual learning by imitation with motor representations” IEEE Trans Syst Man Cybern B Cybern. 2005 Jun;35(3):438-49.
  6. Harris, D. V., & Robinson, W. J. “The effect of skill level on EMG activity during internal and external imagery.” Journal of Sport Psychology, (1986). 8, 105-111
  7. Cross, Emily S., Hamilton, Antonia F. de C., and Grafton , Scott T.   “Building a motor simulation de novo: Observation of dance by dancers” Neuroimage. 2006 July 1; 31(3): 1257–1267.
  8. Song, Sunbin, Howard, James H., Jr., and Howard, Darlene V. “Perceptual sequence learning in a serial reaction time task” Exp Brain Res. 2008 August; 189(2): 145–158.
  9. Främling K., “Guiding exploration by pre-existing knowledge without modifying reward.” Neural Netw. 2007 Aug;20(6):736-47. Epub 2007 Feb 12
  10. Pardo-Vazquez, Jose L. , Leboran, Victor and Acuña, Carlos, A role for the ventral premotor cortex beyond performance monitoring” Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 November 3; 106(44): 18815–18819.
  11. Oberman, Lindsay M., Pineda, Jaime A., Ramachandran, Vilayanur S., “The human mirror neuron system: A link between action observation and social skills,” Soc Cogn Affect Neurosci. 2007 March; 2(1): 62–66.
  12. Lacoboni, Marco, Molnar-Szakacs, Istvan,   Gallese, Vittorio, Buccino, Giovanni, Mazziotta, John C , and Rizzolatti, Giacomo, “Grasping the Intentions of Others with One’s Own Mirror Neuron System” PLoS Biol. 2005 March; 3(3): e79.
  13. Kilner, James M. ,   Friston, Karl J., and Frith, Chris D. “Predictive coding an account of the mirror neuron system” Cogn Process. 2007 September; 8(3): 159–166.
  14. Soho, Takuan. The Unfettered Mind. Trans. William Scott Wilson. Tokyo: Kodansha International Ltd., 1986.

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