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武術の視点から見たウチナーグチを沖縄空手と古武道で使う意味

サマンサ・メイ博士

 

ウチナーグチは消滅危機にある言語であり、あらゆる手段を用いて速やかに普及対策がとられるべきである。しかしウチナーグチは学校で教えられていないため、他の組織やコミュニティを通じた学習・使用機会が検討されなければならない。沖縄武術をウチナーグチで教えるいくつかの説得力ある理由はここにある―それも武術特有の理由である。

 

1) ウチナーグチは沖縄武術を実践する上で重要な武術の専門用語を含む

たとえばアティファ(打撃の衝撃波による対象物へのエネルギー移転)、シシェー(身体、呼吸、心が一つになり発生する力で打撃する、または防御する)、ムチ(鞭のようなしなやかさ)、ムチミ(粘りある手/重い手)に見られるように、特定の技の名称や記述様式は沖縄文化に深く根付く概念および沖縄武術の正しい実践に必要な概念に言及している。英国の空手講師で、稽古でウチナーグチを使用したリンダ・マーチャントは以下のように述べている。

英語では粘りと言うと色々な意味に解釈できますが、ムチミという言葉はこれだけで言いたいことを全て表現しています。あれこれ説明するより、人はこの言葉を記憶しますから、私は複数の情報を凝縮した便利な言葉だと思います。年長者の方々がチリチリのチャンチャンというような言葉を使うときも、言葉のイメージをつかむだけで理解を深められます。記憶補助のような感じですね。自分自身の身体の弾力性を探しているのです。(#1)

上記引用が示唆するように、ウチナーグチの概念は日本語や外国語で説明可能かもしれないが、そのような説明は長いフレーズや複数の文章を要するのが普通であり、ウチナーグチの一単語と比較して簡潔性・正確性ともに劣る。加えて、武術コミュニティは世界各地に存在する実践者の国際的コミュニティであり、その大半は日本語をほとんどまたは全く理解しないので、言語の壁によりコミュニケーションのミスが頻発し、講師が学習者に知識を与えようとしてもそれが円滑に行われない場合がある。当然、これは学習者の成長の妨げになる。

他方、コミュニティ全体がウチナーグチの武術用語を標準的に使用すればコミュニケーションが向上し、現場での実践の質も向上するだろう。沖縄出身の講師の大半はウチナーグチで武術を学び(#2)、彼らこそが世界標準を作り上げたので、ウチナーグチを沖縄武術の実践の場に再導入するのは二重の意味で適切である。

一般的に武術は自己研鑽の手法として実践されているので(#3)、武術を教える者は格言を用いて人格の成長の強く促す場合がある(#4)。 イチャリバ チョーデー(一度会えばみな兄弟)トゥーヌ イーベー、インタキ ヤ アラン(10本の指はそれぞれ異なる長さと幅をもつが、互い助けあっている)など、ウチナーグチの格言は沖縄が世界をどう考えるか、そして沖縄武術が実践する理念をわかりやすく描く。これらは究極的には沖縄の社会から派生する概念である。

沖縄空手と古武道と同じく、ウチナーグチは沖縄のアイデンティティの表現である(#5)。これら格言の意味は外国語でも知ることができるが、外国人武術家がしばしばそうであるように、沖縄にいる、または沖縄人と触れる場合、ウチナーグチの格言を知っているとコミュニケーションが自然と生まれ、既知の知識も深まり、さらなる知識への扉が開く(#6)。イチャリバ チョーデーは決して形骸化した言葉ではなく、その重要性は沖縄人の生き方に深く根を下ろしており、他の格言と同じく頻繁に引用され、与那原の石碑に刻み込まれているほどである(#7)。

同様に、多くの空手および古武道の型の名称は、沖縄の歴史的人物や今日も現存する場所の名前に由来している。武器の型である「浜比嘉ぬとんふぁ」は浜比嘉島で生まれたとされ、伝説によるとここは沖縄文明が誕生した地であるということである。同じく武器の型である「北谷やらぬ釵」は、中国で武術と外国語を長年学んだ北谷出身の屋良により完成された。屋良が沖縄に戻る際、オール1本で武装した侍から沖縄の女性を守ったとされる言い伝えが残っている。この事件後、彼は乞われて現地民に武術を教えることになった。これら型の名称はすでに世界各地の古武道実践者に知られているが、物理的場所としての沖縄、その文化的文脈、歴史的経緯との関連性を知らなければ意味をもたない言葉にすぎない。

 

2) 沖縄と世界の武術コミュニティメンバーはウチナーグチを学ぶ意欲があり、沖縄武術の実践において使用したい

沖縄方言を空手で使うと、オンさんのようなアメリカ人やオーストラリア人は色んなことを覚えるのです…ご存じの通り、(ウチナーグチ)は徐々に消えつつあり、本当に残念なわけなのですが、だからこそ私はできるだけ沖縄表現を使う方法を考えていますし、今後は本格的に実践するべきだと考えています。(#8)

金城孝先生は上記で、沖縄武術家およびウチナーグチ話者が沖縄武術の現場でウチナーグチを学び使用することについて高いレベルで支援している事実について発言している(#9)。多くのウチナーグチ話者と同じく、金城先生は言語の喪失について懸念し、外国人の弟子にウチナーグチの表現を教えることに効用を見出している。別の重要な情報提供者は同じく武術を教える者であるが、ウチナーグチを守りたいという願いと生涯続く沖縄武術への関心のあまり、この人物も独自で類似するプロジェクトを立ち上げた(#10)。他のウチナーグチ支持派である沖縄人の情報提供者はウチナーグチ、沖縄の伝統的音楽、そして中央政府でさえも保護の対象とするNPOの代表であった(#11)。ウチナーグチに対する同様の関心は日本および海外の武術家を対象としたアンケート調査の第一ラウンドの結果に反映されている(図1)。

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       図1:外国人および日本人武術家のウチナーグチ学習意欲と使用意欲

相手方の沖縄人と同じく、沖縄武術を実践する外国人は武術実践の場でウチナーグチを学び使用する強い意欲があった。しかし日本人‐大半は沖縄出身である‐はウチナーグチを学ぶことについてより強い意欲を見せた。国際的コミュニティの多くのメンバーはウチナーグチが武術の技を磨き、沖縄の文化的知識を深めるのだとすぐに理解した(図2)。

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       図2:沖縄武術および沖縄文化に関連するウチナーグチ学習に対する関心

1対1の師弟プログラムは言語再活性化に重要かつ効果的なアプローチなので(#12)、ウチナーグチの師弟プログラムに対する関心を調査した。ここでも結果は沖縄武術の実践とウチナーグチ学習は整合性があり、より広い意味で沖縄文化に対する関心と結びついていた。

Q37. 師弟プログラムは1対1の言語イマージョン(集中訓練)の一種です。学習者は言語のネイティブ話者と毎週10時間~20時間もの時間を過ごし、様々な活動を通して言語を学びます。あなたはウチナーグチをこの方法で学ぶことに関心がありますか?

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       図3:ウチナーグチ学習のための師弟プログラムに対する武術家の関心

問20は参加者に対して、ウチナーグチはどのようにPRされるべきか、そしてどの沖縄武術関連のウチナーグチ教材に関心をもつか聞いた。

Q20 ウチナーグチはどのようにPRされるべきだと思いますか?

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       図4:沖縄武術におけるウチナーグチのPRに関する武術家の推奨

調査の回答によると、回答者の大多数は武術関連のウチナーグチ使用および言語教材のPRに強い関心をもっていた。

 

3) ウチナーグチの使用は沖縄武術の実践に役立つ

本プロジェクトのために作成されたウチナーグチ素材(沖縄空手・古武道ハンドブックで集められたウチナーグチ単語集)を使用する前、参加者は沖縄の言葉を学ぶことでいくつかの利点があると強く信じていた(図5参照)。

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       図5: 武術家が感じるウチナーグチ使用の利点

アンケート調査第2ラウンドの問19は武術家が感じるウチナーグチ学習の利点について聞いた。

Q19 稽古で沖縄の言葉を学習・使用したことは役立ちましたか?該当する全てを選択してください。

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       図6:沖縄武術の実践現場でウチナーグチを使用することについて報告された利点

ただし、ある参加者は「私は日本語でも、英語でも、ウチナーグチでも特にピンとこないが、言葉の裏に隠されている概念からは多くを学ぶ。概念によっては上手く翻訳できないものもあるから、きちんと考えなくてはならないのです」と言った(#13)。つまりウチナーグチを学ぶこと自体に関心がなかった者でも、ウチナーグチの武術用語知識は価値を有していた。

 

議論と結論 : 低い言語的自尊心

武術関連の専門的なウチナーグチ用語集が存在し、沖縄や海外の沖縄武術コミュニティの大多数が使う意欲を示し、ウチナーグチを学んだ者が実践において自身の学習・使用から恩恵を受けるならば、なぜもっと多くの武術コミュニティメンバーが沖縄空手および古武道の現場でウチナーグチを使っていないのだろうか?

前述の通り、沖縄では複数の社会言語学的・歴史的経緯により学校や一般生活においてウチナーグチの使用が制限されるまで、沖縄武術は元々ウチナーグチで教えられていた(#14)。ただし、ウチナーグチの流暢性およびウチナーグチを使う場所や機会を喪失したことに加えて、今日のウチナーグチ使用に影響を与えている要素に「低い言語的自尊心」と呼ばれるものがある。おそらくウチナーグチは日本語(または英語)よりも重要と感じられていないため、沖縄人は常に沖縄の言葉に対する自身の関心や他者の関心を過小評価する。図7は沖縄の若者および外国人武術家におけるウチナーグチ学習に対する関心についての沖縄人の認識と、各グループ実際の関心を示している(太字)。

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       図7:ウチナーグチ学習に対する関心についての認識レベルと実際レベルの比較 

ウチナーグチ学習に対する外国人武術家の関心はとても高いと感じられていたが、それでも相当な過小評価であった。最も懸念されるのはウチナーグチ学習に対する沖縄人の若者の関心が10点中5.1点と、とても低いと感じられていたことである。しかしウチナーグチ学習に対する沖縄人の若者の実際の関心は10点中8点と高かった。

このデータは沖縄人の若者と外国人武術家は共にウチナーグチ学習に強い関心があると示す一方で、それを知る沖縄人は少ないと示唆している。消滅危機にある言語の話者の認識と同じように(#15)、学習に対する関心が低いというウチナーグチ話者の認識‐特に沖縄人の若者について‐は、このグループとウチナーグチを使う、または教える可能性をかなり低くする。言語の継承は若者がカギを握るので、この状況はウチナーグチの長期的展望に重大な意味を持つ(#16)。 逆に私の武術関連のウチナーグチを学ぶことについての関心をよく知り、私と定期的に武術の稽古および/または3回以上のインタビューを実施した研究参加者は、武術稽古の場でもそれ以外でも私に対してウチナーグチを使用することが多かった。本研究の過程で一部の参加者には、自身のウチナーグチの向上を図るため、私にウチナーグチ教室について助言を求めた者もいた。要するに、沖縄でも海外からでも、武術家がウチナーグチを学ぶ関心がある場合、それがたとえ武術中心のウチナーグチでも、少なくとも未来の世代にウチナーグチ中心の武術知識を残す一助となることだろう。

 

注記

#1 インタビュー、2014年3月20日

#2 東恩納 盛男 先生, インタビュー、 2014年; 孝金城 先生, インタビュー, 2013年-2014年)

#3 Brown & Leledaki, 2010; Columbus & Rice, 1998

#4 Govreen, インタビュー、 2013年; 東恩納 盛男 先生, インタビュー, 2014年)

#5 Juster, 2011

#6 カナダ人先生, メール, 2013年4月25日

#7外間哲弘先生, インタビュー、2013年2月13 日)

#8金孝城 先生, インタビュー、24:59- 25:50, 2013年2月7日, as quoted in May, 2014, p. 34

#9 May, 2014; 2015

#10 垣花慶春先生、 インタビュー 、2013年 2月3日

#11 (Tamashiro, personal communications, 2014)、 (Kyouko, personal communication, March 27, 2014)  (Kudaka, personal communication, February 20, 2013)

#12 Canadian First Peoples’ Heritage, Language & Culture Council, undated; First Peoples’ Heritage, Language and Culture Council, 2010; Grenoble & Whaley, 2006

#13 May, インタビュー、October 6, 2014

#14 Heinrich, 2012; Matsuno, 2004; Osumi, 2001

#15 McCarty, Romero, and Zepeda, 2006

#16 Ishihara, 2014

注意

● この諸論文のデータは、メイ・サマンサ博士の博士論「Uchinaaguchi Language Reclamation in the Martial Arts Community in Okinawa and Abroad」(琉球大学、西原町)

● この論文は、英語の論文から省略された原稿の和訳になります。

 

 

 

 

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